この物語を最初に思い描いたきっかけは、私たち皆が、まるで終わりなく泳ぎ続けなければならないクジラのようだと感じたからでした。決められた方向へ、決められた速度で、誰かに遅れまいと必死に動き続ける姿。その中で次第に疲れ果て、本当に自分が望んでいるものは何なのか、自分だけの色とは何なのかを、見失ってしまうのではないか――そんな行き場のない不安がありました。

物語の中の「休むことのない海」は、私たちが生きているこの世界そのものを象徴しています。競争と騒音、そして立ち止まれば淘汰されるという恐れに満ちた場所です。そこで主人公のクジラが感じる疲労感や無力感、孤独は、もしかすると私たちの心の奥深くに潜んでいる感情なのかもしれません。

クジラが沈んでいく「深淵」は、絶望の場所であると同時に、自分自身と向き合う内面の空間でもあります。すべてを失ったと思い込んだその場所で、クジラはようやく、「本当の自分」と「失われた歌」の存在に、かすかに気づき始めます。この「失われた歌」とは、世の中の基準に合わせて生きるうちに忘れてしまった、自分だけの声、自分だけの価値、自分だけの夢を意味しています。

深淵から戻ったクジラが「自分だけの潮」をつくると決意する過程は、世界の速度や方向に流されることなく、自分自身の道を探そうとする勇気を表しています。他のクジラたちの視線や無関心の中で揺らがず、内なる声に耳を傾け続けることは、決して簡単なことではありません。それでも、その苦しい旅の中でクジラは、世界の小さな美しさに気づき、失っていた自分の歌を少しずつ取り戻していきます。

最後にクジラが歌う「自分のための歌」は、誰かに見せるためのものではなく、ただ自分自身のための歌です。完璧でなくてもいい、今のままの自分でも十分に価値がある――そう自分に語りかける歌です。「本当の自分」とは、過去の完璧だった姿でも、未来の理想像でもなく、困難な旅を進んでいる“今この瞬間の自分”なのだと気づいたとき、クジラはようやく、本当の自由と希望を見つけます。

この物語が、休むことなく前へ進むことを求められる世界の中で、ほんのひととき立ち止まって息を整えたい方や、失われた自分の歌を探している方にとって、ささやかな慰めと勇気となることを願っています。
あなたの速度で、あなた自身の歌を歌いながら進む、その旅を――心から応援しています。

Posted in ,

댓글 남기기