窓辺にもたれて座っていた。
午後の陽射しが窓枠を越えて、部屋の奥まで静かに染み込んでくる。
時間はゆっくり流れているようでいて、光の角度が微かに変わっていくのを見て、確かに時は進んでいるのだと気づいた。
それはもう正午の鋭い光ではなく、やわらかく、少し気怠い金色だった。
その光の中で、小さな埃たちが数えきれないほど瞬きながら舞っている。
まるでこの世界のささやかな存在たちが、それぞれのリズムで息をして生きていることを教えてくれるようだった。
それを静かに眺めているうちに、胸の奥のざわめきが少しずつ落ち着いていくのを感じた。
手には、いつものようにタンブラーを持っていた。
お気に入りのお茶にしようか迷ったけれど、今日はコーヒーが飲みたかった。
蓋を開けると、ふわりと湯気が立ち上り、濃いコーヒーの香りが鼻先をくすぐる。
タンブラーを包み込む掌には、心地よい温もりがそのまま伝わってきた。
その温かさが好きで、思わず少し力を込めて握る。
その温もりのように、昨日君と交わした笑い声が、ふと心に染み込んできた。
特別な話だったわけじゃない。
道ですれ違った小さな犬の話、新しくできたカフェの少し変わった名前の話、その日に見た空の雲の形の話。
そんな何気ない会話の中で、理由もなく笑いがこぼれて、その笑い声はいまも耳元に残っている気がする。
あの瞬間の温かさと安らぎは、小さくてきれいな小石のように、心の奥でしっかりと結ばれていた。
その記憶を辿るたび、自然と君の顔が浮かび、知らないうちに口元に静かな微笑みが広がる。
私たちは、たくさん言葉を交わさなくても大丈夫だった。
時には長く深い会話よりも、ただ同じ空間で沈黙を共有する時間のほうが、多くのことを語ってくれる気がした。
視線だけで、かすかな息遣いだけで、互いの気持ちを感じ取ることができた。
君が何を考え、どんな感情を抱いているのか、言葉にしなくても、ぼんやりと分かった。
それは朝露が葉先に宿り、陽の光を受けて静かに輝くような、穏やかだけれど確かな温もりだった。
その安定した感覚は、世界の複雑さや不安から私をそっと切り離してくれるようだった。
君の存在そのものが、私にとって大きな慰めであり、ほんのひととき身を預けられる、確かな安らぎの場所だった。
昨日、君と一緒に歩いたあの道が、目の前に鮮やかによみがえる。
賑やかな都会の通りではなかった。
華やかな店が並び、人の流れが絶えない場所でもない。
ただ、私たちが暮らす町の、静かでありふれた道。
でも、その静けさがかえって心地よかった。
私たちの足音がリズムを合わせてアスファルトに響き、すれ違う風が木の葉を揺らして囁く。
低く交わす数言の言葉と、時折こぼれる笑い声だけが、その空間を満たしていた。
あの日の陽射しはやけに温かく、風はとてもやさしかった。
まるで自然までもが、私たちの空気を映して、穏やかに語りかけてくるようだった。
道端に咲く小さな野花、塀に落ちる木影、遠くから聞こえる子どもたちの笑い声、通り過ぎる一匹の猫さえも、君と一緒に見ると新しく感じられた。
普段なら何気なく通り過ぎていた景色が、君と歩いているというだけで、特別な意味を帯びていく。
忙しく流れる日常の中で、すべてを一度止めて君と歩いたあの時間。
それは私の一日という絵の中で、いちばんやわらかな色で塗られた、いちばん静かで美しい場面になった。
あの瞬間だけは、時間さえも私たちのために息を潜めていたように思う。
君とゆっくり歩くこの道が、どうしてあんなにも短く感じられたのだろう。
確かにそれなりの時間を歩いていたはずなのに、別れの時間が近づくほど、名残惜しさが膨らんでいった。
君の隣にいるという、ただそれだけで、時間は魔法のようにゆっくり流れたり、気づけば一瞬で過ぎ去ったりする。
君と歩いている間、私たちは世界の速度から離れて、私たちだけの時間の中にいるようだった。
見慣れた景色でさえ、君と一緒だと新鮮で、まるで初めて世界を見るような気持ちになる。
何気なくかけられる君のやさしい一言、小さな仕草ひとつに、心がくすぐられ、ときめきが滲む。
きっと私たちは、互いの存在だけで十分に幸せだったのだと思う。
考えや感情を分かち合いながら、少しずつ互いに染まっていった。
話し方や表情、好きなものまで似ていくのが不思議で、それを微笑ましく感じることもあった。
指先に残る温もりのように、君の存在は心の奥で、静かだけれど確かに輝いていた。
その光は、暗闇で道を見失わないよう導く灯台のようでもあり、冷えた心を溶かす、小さな炎のようでもあった。
君がそばにいるという事実だけで、世界は少し、生きやすくなる気がした。
どれだけ時間が流れても、昨日のあの瞬間は決して消えない。
何でもない一日を、君の存在だけで特別なものにしてくれた時間。
一緒に分け合った温もりだけで、私の心はいつでも穏やかで、満たされる。
冬の日に冷えた手を温めてくれるココアのように、その温かさは全身に広がっていく。
それは単なる身体の温もりではなく、心の奥から立ち上がる安心感と幸福だった。
優しかったあの一日は、季節の流れの中で静かに過ぎていくけれど、言葉にしなくても視線で伝わった深い理解と共感は、いまも変わらず私の中に残っている。
君の眼差しの中で、私は自分自身を見つけ、条件のない支えと温かさを感じた。
何気なく過ぎていく日々の中で、君はいつも、私にとっていちばん大きな慰めであり、いちばん明るく輝く存在でいてくれる。
窓辺に座り、あの日の温もりをもう一度感じながら思う。
君という存在が、私の人生にとってどれほど大きな贈り物なのか。
そして、これから君と一緒に紡いでいく時間が、どれほど美しく、かけがえのないものになるのか。
その期待だけで、今日という一日が少し輝いて見える。
君がそばにいてくれるから、平凡な日常は特別になり、色のなかった毎日に、色彩が宿る。
君は、私にとってそういう存在だ。
永遠に消えない、いちばん美しい情景。
sol.ace_r
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